「ゆりかごから墓場まで」— 人生の各ステージのファイナンシャル・プランニング【連載27】

退職金の賢い使い方と取り崩しの順序

定年退職時に一括で手にすることの多い「退職金」は、老後生活の出発点であり、人生最後の大きな収入源とも言える重要な資金です。しかし、まとまった金額が入ることで気が緩み、無計画に使ってしまうと、老後後半に資金が枯渇するリスクもあります。

この項では、退職金を有効に活用し、老後資産全体を長く保たせるための使い方と、資産を取り崩す際の順序について解説します。


◆ 退職金の受け取り方:一時金と年金方式の違い

退職金の受け取り方は、主に次の2種類です。

方式特徴税制メリット
一時金一括で受け取る退職所得控除が適用され、大幅な節税可
年金形式分割で受け取る公的年金等控除の対象になる(所得扱い)

▸ ポイント:

  • 一時金で受け取ると税負担が抑えやすく、運用自由度が高い
  • 年金形式は安定したキャッシュフローが得られる反面、税制優遇はやや劣る

▶ 両方を組み合わせて受け取る「ハイブリッド型」も選択肢として有効です。勤め先の制度と金融商品(企業年金・個人年金保険など)により柔軟に設計可能です。


◆ 退職金の「使い道」と「優先順位」

受け取った退職金の使い道は、次のように「優先順位」をつけて管理すると、浪費を防ぎつつ安心を確保できます。

▸ 優先して使うべき用途

  1. 住宅ローンの残債返済(ただし、金利によっては据え置きも検討)
  2. 医療・介護・葬儀など将来の必須支出の備え
  3. 老後生活の生活費補填(年金との差額)
  4. 緊急予備資金として生活費の6ヶ月〜1年分を確保
  5. 旅行・趣味などの自分の楽しみ(ただし予算を決めて)

▶ まとまった金額を一度に大きく使うのではなく、「必要なタイミングに応じて計画的に取り崩す」ことが重要です。


◆ 資産の取り崩し順序で「長持ち」する家計に

老後の生活では、年金、預貯金、投資資産など、複数の資産をどう組み合わせて取り崩していくかで資産寿命が大きく変わります

▸ 取り崩す順序の基本戦略

  1. 生活費はまず「年金」でまかなう
  2. 次に「預貯金」や「低リスク資産」から取り崩す
  3. 「投資資産(株式・投資信託)」はなるべく最後に温存
  4. 介護・医療が増える80代以降に備えて資産の一部を残す

▶ 株式などの値動きのある資産は、相場が悪いときに売却しないよう調整が必要です。値上がり時に取り崩す“リバランス戦略”も検討しましょう。


◆ 無駄遣いを防ぐ仕組みを作る

退職金を「見える化」し、生活費口座とは別に管理することで、気が大きくなって使いすぎるリスクを防げます

  • 目的別に口座を分ける(例:生活費用、医療費用、趣味用など)
  • 定額自動引き出し機能のある定期預金や年金型保険の活用
  • 家族と資産の使い道を共有しておく

▶ お金の使い方を“仕組み化”することで、老後の家計に計画性が生まれます。


◆ まとめ:「一気に使わず、計画的に使う」が鉄則

退職金は人生のセカンドステージを支える大切な資産です。
税制・ライフイベント・家族構成・余命など多様な要素を踏まえて、「何に・いつ・どれだけ使うか」を冷静に設計することが老後の安心につながります。

「もらったその日から、老後の未来は変えられる」──それが退職金の真の価値です。