「ゆりかごから墓場まで」— 人生の各ステージのファイナンシャル・プランニング【連載26】


年金制度の仕組みと受け取り方の工夫

老後の生活資金の柱となる「年金」。
年金制度は難解で、仕組みを正しく理解していないまま受給を迎える人も少なくありません。しかし、年金は「もらうだけの制度」ではなく、「受け取り方を工夫することで生涯の収入を最適化できる制度」です。

この項では、日本の年金制度の基本と、受給開始年齢の選び方や繰下げ・繰上げ受給のメリット・デメリットについて、わかりやすく解説します。


◆ 日本の年金制度の基本構造

日本の公的年金制度は「2階建て構造」となっています。

階層名称対象特徴
1階国民年金(基礎年金)全ての20歳以上60歳未満の国民月額 約6.5万円(満額・令和6年度)
2階厚生年金会社員・公務員など月額 約14〜15万円が平均(収入と加入期間による)

※フリーランスや自営業者は国民年金のみのため、将来の受給額は少なくなります。


◆ 受給開始年齢と受け取り方の工夫

年金の受給開始年齢は原則65歳ですが、60歳〜75歳の間で自由に選ぶことが可能です(老齢基礎年金・老齢厚生年金ともに)。

選択内容増減率(年単位)
繰上げ受給60〜64歳で受給開始月額が最大30%減(5年間繰上げ)
通常受給65歳で開始減額・増額なし
繰下げ受給66〜75歳で受給開始月額が最大84%増(10年間繰下げ)

▸ 工夫ポイント:

  • 長生きリスクに備えるなら繰下げが有利
  • 60代で収入があるなら年金を繰下げて受給額を増やす選択も
  • 健康状態や平均余命、貯蓄額を踏まえて戦略的に選ぶ

◆ 年金だけでは足りない?必要な“上乗せ”の備え

総務省の家計調査によると、65歳以上の夫婦世帯の月間支出は平均約26万円。
一方で、公的年金の受給額の平均は月約21万円程度(夫婦合計)。

▶ 年金だけでは毎月数万円の赤字となる可能性もあり、「退職金や貯蓄」「私的年金(企業年金・iDeCoなど)」での補完が現実的な対策となります。


◆ 年金と税金・社会保険の関係も忘れずに

年金収入にも所得税・住民税がかかる場合があり、年金の手取り額は「課税対象額-税金・健康保険料」で決まります。控除の仕組み(公的年金等控除)を理解しておくことも重要です。


◆ まとめ:年金は“受け取り方”で生涯収入が変わる制度

年金制度は、単に「もらうだけ」の仕組みではなく、自分のライフスタイルや家計状況に応じて最適な受け取り方を選べる制度です。

繰下げで増額するか、早めに受給して他の資産と併用するか──選択次第で生涯の総受給額が数百万円単位で変わることもあります。

60歳を迎える前に、公的年金のねんきん定期便・ねんきんネットで将来の年金額を確認し、退職金や貯蓄とのバランスを考えながら、賢く計画を立てましょう。


出典:

  • 日本年金機構「年金制度の概要」「繰上げ・繰下げ受給」
  • 厚生労働省「令和6年度の年金額」
  • 総務省「家計調査年報」