「ゆりかごから墓場まで」— 人生の各ステージのファイナンシャル・プランニング【連載29】

医療・介護に備える資金計画と保険の活用
目次
老後の生活において、最も大きな不安要素のひとつが「医療」と「介護」にかかるお金です。
高齢になると病気のリスクが高まり、入院や手術が必要になることも少なくありません。さらに、加齢による体力の低下や認知症などで、長期にわたる介護が必要になる可能性も高まります。
これらに備えるには、公的制度の仕組みを理解しつつ、自己負担額の想定と、民間保険の使い方を適切に組み合わせることがカギとなります。
◆ 医療費の現実:自己負担はどれくらい?
日本では、70歳以上は医療費の自己負担が2割(一定以上の所得者は3割)に軽減されており、他国に比べて公的支援が充実しています。
▸ 高額療養費制度の活用で負担軽減も可能
例)年収370万円未満の70歳以上の方が入院・手術を受けた場合
→ 自己負担の上限は約18,000円/月程度(入院食費・差額ベッド代など除く)
▶ この制度を知っておくことで、「入院費が払えない」という不安を大幅に軽減できます。
◆ 介護費用はどのくらいかかる?
介護費用は一度に大きくかかるというより、年単位で継続的に必要になる費用です。
- 要介護者1人あたりの平均介護期間:約5年
- 月間介護費用の平均:7万〜15万円(在宅/施設による差あり)
- 合計では500〜800万円超になるケースも
▸ 介護保険制度の仕組み(要介護認定が前提)
- 要介護度に応じて、公的サービスの利用上限が設定される
- 利用者負担は原則1割(所得により2〜3割)
- 通所介護、訪問介護、ショートステイ、施設入所などが対象
▶ 公的介護保険でまかなえない部分は、自費サービス・住宅改修・交通費・家族の労力なども想定しておく必要があります。
◆ 医療・介護に備えるための民間保険の考え方
現役時代に加入していた保険は、退職後もそのまま継続すべきとは限りません。
医療・介護への備えは、「必要最低限をカバーし、保険料を抑える」ことがポイントです。
▸ 医療保険の見直しポイント
- 入院1日あたりの給付金額は5,000〜10,000円で十分
- 長期入院対応型、先進医療特約の有無を確認
- 終身タイプで保険料が一定のものが安心
▸ 介護保険の活用
- 要介護状態になると一時金・年金が支払われるタイプが主流
- 公的介護保険の“穴”を埋める補完的な役割
- 40代〜60代のうちに加入すれば保険料も抑えられる
▶ 医療・介護の両方を補償する「複合型保険」もありますが、保険料が高くなりすぎないよう注意が必要です。
◆ 「現金」「保険」「制度」の3本柱で備える
老後の医療・介護に安心して備えるためには、以下の3つの備えをバランスよく持つことが大切です。
備え方 | 具体例 |
現金 | 医療・介護用に100〜300万円程度を別枠で確保 |
保険 | 終身医療保険、介護保険、先進医療特約付き |
制度 | 高額療養費制度、介護保険制度、障害者控除など |
▶ 現金である程度備えがあれば、高額な保険に入りすぎる必要はありません。
◆ まとめ:老後の安心は“制度の理解”と“最小限の備え”でつくる
医療も介護も、突然始まるのが現実です。
「なんとなく不安」で過剰な保険に入るより、必要な保障を見極め、制度をフル活用して備えるのが賢い選択です。
老後の安心は、漠然とした不安を「見える形の準備」に変えることで、確かなものになります。