「ゆりかごから墓場まで」— 人生の各ステージのファイナンシャル・プランニング【連載7】

第2章:学童期・思春期(7〜18歳)
目次
子どもが小学校に入学すると、日々の成長がますます頼もしく感じられるようになります。学習、スポーツ、音楽、友達との関わり――この時期は、子ども自身が社会の中で自立の一歩を踏み出し始める、大切な成長期です。
一方で、家庭にとっては教育費や生活費が大きく増えていく時期でもあります。小学校から高校卒業までの12年間は、学費だけでなく、習い事、塾、クラブ活動、進学準備など、さまざまな形でお金がかかってきます。
たとえば文部科学省の調査では、公立の小中高校でも年間30万円〜60万円程度、私立となればその数倍の教育費が必要になるケースもあります。さらに高校卒業後の大学進学を見据えると、今からの資金準備が将来の家計を左右することも少なくありません。
この章では、以下のようなテーマを中心に、「教育費の現実と賢い備え方」を具体的に解説していきます。
- 小・中・高校の教育費の内訳と支援制度
- 習い事や塾にかける費用の考え方
- 子どもへの金銭教育の始め方
- 将来の進学を見据えた中長期的な資金計画
この時期は、「親がどれだけお金をかけるか」という視点だけでなく、「子ども自身がお金との付き合い方を学ぶ」という教育的な観点も非常に重要です。支出を管理しながら、子どもの可能性を広げるための賢い選択をしていきましょう。
さあ、学びと成長が本格化するこの時期に、どのようなファイナンシャル・プランニングが必要なのかを一緒に考えていきましょう。
小・中・高校の教育費の内訳と支援制度
子どもが成長するにつれ、教育にかかる費用は年々増えていきます。特に小学校から高校までの12年間は、義務教育を含むにもかかわらず、家庭が負担する支出は決して少なくありません。文部科学省の調査や法律に基づく支援制度をもとに、各段階の教育費の内訳と、活用できる公的支援制度を見ていきましょう。
◆ 教育費の実態(出典:文部科学省「子供の学習費調査(令和3年度)」)
教育段階 | 公立(年間) | 私立(年間) |
小学校 | 約32万円 | 約159万円 |
中学校 | 約48万円 | 約140万円 |
高校(全日制) | 約45万円 | 約97万円 |
※上記の金額には、授業料、教材費、給食費、PTA会費、制服・体操服、修学旅行費、学習塾・習い事などの「学校外活動費」も含まれています。
◆ 義務教育に関する基本法令と無償の範囲
日本では、小学校・中学校の9年間は義務教育であり、「授業料」は法的に無償と定められています。
- 根拠法令:
▸ 憲法第26条第2項:「義務教育は、これを無償とする。」
▸ 学校教育法第5条第1項:「義務教育として行われる普通教育に関する授業料は、徴収しない。」
ただし、授業料が無償であっても、教材費・給食費・学校外教育費(塾など)などは家庭が負担する必要があり、これらが家計への実質的な負担となっています。
◆ 小・中学校向けの支援制度
▸ 就学援助制度(市区町村が実施)
経済的な理由で就学が困難な児童・生徒を支援するために、各自治体が実施している制度です。
- 支給対象:生活保護世帯に準じる所得水準の家庭
- 援助内容:学用品費、給食費、新入学児童生徒学用品費、修学旅行費、通学費など
- 根拠法令:学校教育法第19条、文部科学省告示「就学援助に関する調査研究協力者会議報告書」等
申請は各自治体の教育委員会または学校を通じて行います。
◆ 高校の授業料と支援制度
高校は義務教育ではありませんが、2020年度から「高等学校等就学支援金制度」が拡充され、一定の条件を満たす場合、授業料が実質無償となっています。
▸ 高等学校等就学支援金制度
- 対象:全国の高等学校(公立・私立問わず)、高等専門学校(1~3年生)、専修学校の高等課程
- 支援内容:
▸ 公立高校:約11万8千円/年(授業料とほぼ同額)
▸ 私立高校:世帯年収590万円未満で最大約39万6千円/年(授業料の実質無償化) - 所得基準:保護者の所得(課税標準額)により決定
- 根拠法令:
▸ 高等学校等就学支援金の支給に関する法律(平成26年法律第18号)
▸ 文部科学省令「高等学校等就学支援金制度施行規則」
私立高校の場合、上記の支援金に加え、各都道府県が独自の授業料補助制度や奨学金制度を設けていることもありますので、進学前に確認しておくことが大切です。
◆ 教育費の増加にどう備えるか
小・中・高校の段階では、以下のような支出が目立ちます:
- 通学費(定期代・自転車購入など)
- 学習塾・予備校費用(中学生で特に増加)
- 習い事や部活動にかかる費用(道具、遠征費など)
- 制服や学用品の買い替え
これらの支出は徐々に積み重なるため、「毎年いくらかかるかを見積もり、計画的に積立を行う」ことが家計を圧迫しないポイントです。
特に中学・高校の進学期にはまとまった出費があるため、学資保険やNISAなどでの長期的な準備も視野に入れると良いでしょう。
◆ まとめ
日本では義務教育が無償であるものの、実際の教育費は公私問わずかなりの金額になります。特に中学・高校では塾・教材費がかさみ、「教育費の山場」が訪れる時期です。
一方で、就学援助や就学支援金制度など、公的な支援制度を活用することで、家庭の負担を大きく軽減することが可能です。制度の存在を知っているかどうかで、数十万円の差が生まれることもあります。
まずは現在の教育費の状況を把握し、利用できる支援制度を確認することから、子どもの将来への備えをはじめましょう。
出典・参考: